大学生・社会人の部 聖子賞(1)


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「平和を愛する世界人として」を読んで

大学生・社会人の部:聖子賞

 石黒 寛子

 

 私はまず、この自叙伝の序文に衝撃を受けました。私はこの本を読む以前に、文師のこれまでの生涯について学ぶ機会がありました。文師の人生は決して平穏なものではなく、波乱万丈、むしろ悲惨とも言える苦難の連続であり、とても普通の人間では耐えられないような経験を多くしているのです。どれほど悔しいこと、恨めしいことがたくさんあったことでしょうか。

 

 しかし、この序文の文章のなかには、そのような感情が微塵も感じられないのです。静かな春の訪れに心を躍らせ、深く感謝するその平和な心は一体どこから来るのでしょうか。  「しかし今、私の心の中には小さな傷一つ残っていません。真の愛の前にあっては、傷など何でもないのです。真の愛の前にあっては、怨讐さえも跡形もなく溶けてなくなるのです」。この方が語る「真の愛」とはどんなものなのだろう。

 

 「真なる愛は、与え、また与えても、なお与えたい心です。真なる愛は、愛を与えたということさえも忘れ、さらにまた与える愛です。」愛そうとして傷ついても、すべて忘れてまた愛したい、そのような心があるのだろうか? 私はこの自叙伝が語りかけてくる本質的な問いに向き合わざるを得ない、そんな衝動感を感じながら、ページをめくりました。

 

 「平和を愛する世界人として」―この題名がまさに文師の生き方を表しているように思います。そして、「平和」「愛」「世界」この3つの言葉が、これからの人類にとって重要なキーワードとなるのではないかと思うのです

 「平和」と「世界」を結び付けようとすると、それは何だかとてもスケールの大きな、自分とは遠いところにあるもののように感じませんか? しかし「平和」と「愛」を結びつけて考えてみると、とても身近な、大切な人の姿が浮かんできます。その上で、「愛」と「世界」を一緒に考えてみると、広い世界も、「愛」という共通の要素で結ばれているように感じるのです。

 

 文師は、まさに「世界人」として文字通り世界中を駆け巡りながら、国際社会の重要な局面にも立ち会っています。その一方で、一人のおばあさんの話を何時間も聞き入ったりします。また宗教人として自己の内面と深く向き合う静かな心を持ち、何気ない自然の姿に心から感動します。さらには結婚や家庭の意義も明確に語られます。私は最初、あまりにも幅広い人柄を不思議にも感じました。

 

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